諦めるのはまだ早い!離婚後でも請求可能
年金分割の請求期限は原則として離婚してから2年以内となっています(※)。もしまだ間に合うようなら検討してみてはいかがでしょうか。年金分割の対象者から請求手続き、簡易的な計算方法まで一通り順を追いながらなるべくわかりやすくご説明したいと思います。
(※)離婚後相手が死亡した場合は、死亡日から1ヶ月以内
離婚のすべてが年金分割制度の対象ではない
離婚した女性の皆が皆、年金分割を請求できるわけではありません。年金分割の対象は厚生年金の報酬比例部分、つまり2階に当る部分のみとなっていますので、厚生年金に加入していなかった夫からは分け与えてもらうことができないのです。
つまり婚姻関係中に元夫が会社員や公務員など厚生年金に入っていた期間のみが年金分割の対象であり、自営業者など国民年金しか入っていなかった元夫からは年金分割を請求することはできません。婚姻期間以外で夫が厚生年金に入っていた場合も同様です。
2つの年金分割制度
年金分割制度には合意分割と3号分割の2つがあります。その2つの違いを比較しながら見ていきます。
分割の対象となる期間
合意分割
婚姻期間すべて
3号分割
婚姻期間のうち、平成20年4月1日以降で、かつ第3号被保険者であった期間
分割についての話し合い
合意分割
①分割すること、②按分割合について、の話し合いが必要
3号分割
不要(相手方の同意はいらない)
按分割合
合意分割
上限2分の1の範囲内で話し合いの上、決定
3号分割
強制的に2分の1 話し合い不要
自分が対象者かどうか
①専業主婦や扶養内で働いていた⇒3号分割(合意分割も可能ではある)
②自身が厚生年金に加入していた⇒合意分割
③自身が国民年金に加入していた⇒合意分割
既にお気付きの方もおられると思いますが、簡単に言ってしまえば合意分割は「話し合う手間はあるけど、分け前は多い」、3号分割は「話し合いの手間はないけど、分け前は少なめ」ということです。
ちなみに合意分割と3号分割は同時に請求することができます。その場合、まずは3号分割から先に行われ、残った期間を合意分割で行うという流れになります。
年金分割の計算方法
50歳以上で、かつ老齢厚生年金の受給要件を満たす方は、「年金分割のための情報通知書」で分割後の年金見込額を知ることはできますが、それ以外の方は自力で計算しなければなりません。
1円単位までの金額を知りたいのなら社労士などの専門家に報酬を払う必要がありますが、大まかな金額なら自力で計算することは可能です。
取り寄せた「年金分割のための情報通知書」の“対象期間標準報酬総額”から計算します。
「第1号改定者」は渡す側、「第2号改定者」は受け取る側です。
①会社員と専業主婦②共働きの2つのケースで、按分割合0.5で説明していきます。
婚姻期間が20年、夫の平均年収400万円で妻が専業主婦の場合
第1号改定者の対象期間標準報酬総額 81,600,000円
第2号改定者の対象期間標準報酬総額 0円
81,600,000円÷2=40,800,000円
40,800,000円×5.481/1,000≒223,624円
年間で約223,624円(月額約18,635円)増えます。
婚姻期間が20年で夫の平均年収400万円、妻の平均年収250万円で10年勤務していた場合
第1号改定者の対象期間標準報酬総額 81,600,000円
第2号改定者の対象期間標準報酬総額 24,000,000円
(81,600,000円+24,000,000円)÷2=52,800,000円
(52,800,000円-24,000,000円)×5.481/1,000≒157,858円
年間で約157,858円(月額約13,154円)増えます。
多くの方が「少なくない?」と思うのではないでしょうか。
ですが実際に厚生労働省が令和元年12月に発表した資料によると、分割で受け取る側が増える年金の平均額は、合意分割が月額で約3万円、3号分割においては月額で約5千円であることがわかりました。
過去5年間においてもほぼ同様の金額で推移しており、多くの女性にとって期待とは程遠い結果となっているようです。
年金分割によって老後の生活が成り立つと考えるのではなく、プラス要素として捉えたほうがいいでしょう。
とはいえ人生100年時代、65歳から35年もらうとして、合意分割では、
30,000円×12ヶ月×35年=12,600,000円
3号分割でも、
5,000円×12ヶ月×35年=2,100,000円
となるわけですから、やはり検討してみる価値はあるといえます。
年金分割の手続きの流れ
合意分割と3号分割では、その手続きはまったく異なります。その違いを見ていきます。
合意分割
「年金分割のための情報通知書」を入手する
年金分割の話し合いに必要な情報が記載されている「年金分割のための情報通知書」を最寄りの年金事務所に請求します。
請求するには年金手帳や戸籍謄本が必要になりますが、請求前にあらかじめ年金事務所や厚生労働省のHPなどで確認しておくと安心です。
単独でも請求することはできますが、離婚後の場合、請求した本人だけでなく請求していない相手方にも情報通知書が届きます。
当事者間の話し合い
相手方と年金分割を請求することへの了承を得るとともに、“按分割合”について取り決めを行います。
話し合いで決着がつかなかった場合は家庭裁判所に申し立てを行い、①家事審判、②家事調停、③離婚訴訟、のいずれかを利用しながら合意分割を目指すことになります。
合意内容を文書化した書類を入手する
按分割合まで定めたら請求手続きに入るのですが、請求には合意の内容を証明する書面が必要なため、定めた内容を文書化します。
①話し合いで合意に至った場合には、合意内容をまとめた「公正証書」または「公証人の認証を受けた私署証書」を公証役場で作成します。
②家庭裁判所を通して決着した場合には、確定した審判または調停、判決であることがわかる書類が届きます。
年金分割の請求
当事者またはその一方が年金事務所に行き、「標準報酬改定請求書」に合意内容が記された書類を添付して請求の手続きをします。
日本年金機構から標準報酬の記録を改定したことを記す「標準報酬改定通知書」が当事者に送られてきて完了です。
3号分割
話し合いは不要のため、1人で年金事務所に出向いて申請することができます。自分の年金手帳と当事者双方の戸籍謄本を持っていくことで、自動的に50%に按分されて完了です。ちなみに「年金分割のための情報通知書」の取り寄せは必須ではありません。
注意点
○合意分割は標準報酬の総額(厚生年金保険料の支払合計額)の多いほうから低いほうに分け与える制度のため、もし元妻の標準報酬の総額のほうが高かった場合は、元妻から元夫に分割されることになります。
○3号分割については、元夫が障害厚生年金を受給中の場合で、分割請求の対象となる期間が障害厚生年金の計算の基礎となっているときは分割はできません。合意分割は相手の同意があれば分割できます。
○合意分割の按分割合は0.5での決着が一般的ですが、3号分割とは違って強制ではないため、それ以下での按分割合で決まることもありえます。